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 初心者への「支援」について考える (2001/9/6)

あるとき、初心者支援ギルドのメンバーだという方にお会いしました。
鍛冶GMのその方は、自分の作った鍛冶製品を無償で初心者に与えることもよくあるそうです。それを聞いて私は、「初心者支援ギルド」という言葉の意味を疑いました。もちろん、「職業鍛冶屋ならきちんと金をとるべきだ」ということを言いたいわけではありません。私の「?」は、初心者にHQ品を無償で与えるという行動への疑問です。
初心者にGM製の武具を無償で分け与えることが、本当に「支援」なのでしょうか。

たとえば、今日始めたばかりの初心者に大量のお金を与え、HQ(=High Quality)品やマジックの武具、秘薬を与えて短時間のスパーリングの後すぐにパーティーを組んでダンジョンに連れ出し、いきなり強いモンスターと戦わせる。初心者が通るべき成長の過程をすっ飛ばしていきなり強く恵まれた環境下に置いて、既に長くプレイしている自分たちと同じレベルまで一気に引き上げてやる。
それは果たして「初心者支援」と呼べるでしょうか。誤った初心者支援が、結果としてウルティマ引退への時期を早めているかも知れない、とは考えないのでしょうか。

「初心者はゆっくり成長してほしい」というのが私の持論です。

右も左も分からず、広い街をただうろうろするだけの数日。街行く人との会話や情報収集。野うさぎとの初めての戦闘。NPCの鍛冶屋から買った剣とそう強くはない鎧で、激弱といわれているはずのモンバットを倒すのさえ苦労する日々。入手できるわずかなお金。死体から肉を切り取り、キャンプの火をつけるのにも失敗し、やっとついた炎で肉を焼いては黒焦げにしてしまい地団太を踏む。
初めて見るエティンの大きさに驚き、街から遠く離れた土地でヘビに噛まれ、解毒ポーションもなく回復魔法も知らず、包帯解毒ができるスキルがあるはずもなく命を落とす。やっとのことで野良ヒーラーを見つけて蘇生してもらえたのはいいものの、焦ってやみくもに走っていたため死んだ場所を覚えておらず、所持品を全ロスト…。

ウルティマをこれから始めようという人には、街から一歩出た瞬間に広がっている死の危険や、冒険のわくわくする気持ちや怖さ、悔しさをまず一番に体験してほしい。そして、人の善意や温かさに触れ、この世界で生き抜く知恵や強さを身に付け、苦労を重ねながら少しずつ、少しずつ強くなっていってほしい(もちろん本人は早く強くなりたいと必死なのだけれど)。モンスターを倒すことの苦労や、生産活動の手間、お金を手に入れる大変さを体験してほしい。
そうして得た体験は必ず糧になるはずだし、いつか初心者からヘルプを求められるようになったとき、きっと自分の果たすべき適切な行動が自然にとれるはず。
逆にこのような初期の体験が全くない人は、あっという間に強くなってしまい、それが当たり前の状態なので特に感慨もなければ感動もなく、当然のようにすぐ飽きてしまって、結局のところ引退への時間が早まるのではないでしょうか。

要領のよさだけ覚えても全然偉くなんかないし、また初心者に効率のよい裏技的なスキル上げの方法を教えることは、それ自体が罪ではないかとすら思えます。「善意」というのは、初心者にお金やHQ品、秘薬等を与えることではないはずです。
強くなるための訓練の仕方、冒険にあたっての心構えや必要なアイテムは何か、お金を稼ぐためのもっとも基本的な方法を教えること、広いブリタニアで生き抜くための方法を教えることこそが「善意」であり、ベテランメンバーに課せられた使命ではないでしょうか。

GM製品のありがたみを知り、職人に敬意を払ってそれぞれのアイテムを利用する。フルプレートの防具は戦士にとって憧れの防具であってほしい。それが色付きならなおさらです。
夢や憧れが長く続いた方が、それを達成した時の喜びは大きく、その後の生活はより充実したものになっていく気がします。

鍛冶職人を目指すのであれば、早く青のインゴットを自在に操れるだけのスキルを持った鍛冶屋になりたい、ブリテン北の鍛冶屋で戦士の役に立つ職人になりたい等々の夢を抱きつつ、日々修行に励む。
ある戦士は、無償で武具を修理してくれる(たとえばブリテン北の)鍛冶職人に感謝しつつ、また新たな冒険に出発する。もちろん武具を修理してくれたのは、昔見ていた夢を何ヶ月もかけて実現した、あの鍛冶屋だった…。
そんなストーリーがブリタニアのどこかで展開されていてもいいと思うのです。そしてそれは、この世界での生活を始めて3日でGMになってしまった戦士や、7日でGMになってしまった鍛冶屋には決して作れないストーリー。

もしあなたの友人が新規にウルティマを始めようとしているのなら、あるいはあなたが初心者支援ギルドの一員として活動しているのなら、早く一緒にダンジョン最深部を攻めに行きたいという気持ちを、またはある種のもどかしさを少しだけ我慢して、本当の意味での「支援」とは何かを考え、行動されてみてはいかがでしょうか。



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