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 駆け出し鍛冶屋の頃 2 (2001/7/14)
<前回のあらすじ>(→前編はこちら
鍛冶GMになって間もない頃のある日。
Rootsは知り合いから黒フルプレートの注文を受けたのだった。


黒フルプレートの注文をしてくれた彼とは、ウルティマを始めてまだ3ヶ月くらいのときに知り合って、時々彼の所属するギルドの人たちと一緒に狩りに行く仲。ギルド加入の勧誘も受けていたけれど踏ん切りがつかなくて(というか、当時はギルドに加入する意味がよく分からなかったので)、やんわりとお断りをしていた。

とにかく、ブリタニアで知り合った友人からの依頼。張り切って作りましたよ。黒のフルプレート。
が、この時、私は作成前に価格の取り決めをしていませんでした。依頼時に価格が決まっているなんてのは商売の基本なのに。これは私の大きなミスでした。
他の鍛冶屋さんのHPに載っている価格表や、実際にブリタニアに存在するいくつかのお店を回って価格調査をし、注文の品完成後、彼にICQでメッセージを送りました。オフラインだったけど、あとで見て返信くれればいいやと。

「黒のフルプレ6点セットできてます。金額は7kでいかがでしょうか。」
 (注:現在の価格とは異なります)

7k(7000gp)という価格が高いのか安いのかは、実のところよく分からなかった。何せ今まで商売をしたことなんてなかったのだから。でも、他店ではもっと高い(当時で16k以上という)店もあったし、それに比べれば7kという金額は少なくとも法外な料金設定ではないはず。

が、彼の答えはこうだった。
「フルプレ6点 シャドーで7kは高すぎだよ。
 よく鎧とか買っている所では、4.2kだよ。」

え、今、よく鎧とか買っている所って言った?なぜ比較対象に他の店が出てくるの?私との取り引きなのに?私の作った防具を使いたいと注文してくれたはずなのに、いきなり他店の話を引き合いに出されたことで、突然、激しい怒りがこみ上げてきた。身体中がぶるぶると震えた。悔しさのあまり涙が出そうだった。
銘入りの鍛冶製品はブランド品だ。その品に、作成した鍛冶職人の銘が入っているから価値があるのだ。それを、他のお店と一緒くたにされるのは、鍛冶屋に対する大いなる侮辱だ。誰の銘でもいいのなら安い店で買えばいい。他店との比較で、自分が作った武具の価値を左右されてはたまらない。心からそう思った。

とは言え、自分がまだ新米鍛冶屋であることもまた事実。経験が豊富なわけでもないし、本当に7kが妥当な額だと堂々とは言えない。いくつかのHPや店舗を見て価格を参考にしただけだ。こみ上げる悔しさをぐっとこらえ、爆発しそうな気持ちといくつもの反論の言葉を抑えて返信した。

「シャドーのAR48セットで4.2kというのは安すぎだと思います。
 ただ、こちらも勉強不足でしたので、5.5kでどうでしょうか。
 それでも高ければ、いつも使っているというお店で買った方がよいかも知れません。」

5.5kというのは、考えに考えた上での価格設定だった。相手が4.2kという金額を引き合いに出してきているのだからそれ以下を提示するのが一番いいんだろうけど、それはどうしてもできなかった。5.5kという価格にしても、自分をひどく安っぽいものにしている気がした。

そしてそれ以降、彼からの連絡はなかった。
1度か2度、こちらから連絡してはみたのだけれど、返信はなかった。

彼にしてみれば、「いつも使っている店」というのが相場だったのかも知れない。
そして、友人だから「当然に」もっと安い金額が提示されるものだと思っていたのかも知れない。
まだGMになったばかりで駆け出しの鍛冶屋だから、他店との比較でちょっと値切ってやれば簡単に安くなるもんだと思っていたのかも知れない。
しかし、どんな理由を付けるにせよ、彼が私の作った武具の価値を低く見ていることは明らかだった。それはつまり、鍛冶屋としての私の価値を低く見られているのと同義だった。
料金のトラブルはもう嫌だ。足元を見られるのも絶対に嫌だ。私は鍛冶屋としての誇りを持って生産活動に取り組みたい。そのために必要なことをしなければならない。

そう。堂々と運営ポリシーを掲げよう。料金もHPで公開しよう。

この事件があって出来上がったのが、今掲げられている運営ポリシー商品価格表
2つの大原則
「銘入りのHQ品のみを販売する」
「値引きはしない」
鍛冶屋として商売していく上で、これだけは曲げられない。その代わり、出来るだけのサービスは提供しよう。修理は無料。呼ばれたら駆けつける。これを徹底しよう。

そう決めて以来、料金をめぐるトラブルは1件も起きていない。
仲のよい友人との取り引きで、今は持ち合わせがないから後払いでよいかとの問いにさえ、申し訳ないけれどお断りをしている。そこまで頑なにこのルールを守り続けているのは、もう2度と料金トラブルを起こしたくないからという理由だけではない。こんなある意味些細なことで、大事な友人と仲違いをしてしまった、つまらない行き違いはもうこれっきりにしたいという思いからだ。

私は1人の鍛冶屋。それ以上でもそれ以下でもない。
これからもこの職業に、そして自分の銘に誇りを持って商売を続けていきたいと考えている。



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